脳・脊髄・神経センター センター長 島野 裕史 医師
国際アルツハイマー病協会(ADI) と世界保健機構(WHO)は9月21日を「世界アルツハイマーデー」と制定し、この日を中心に認知症の啓蒙が行われました。また、認知症の進行を遅らす従来の薬に加えて、発症を抑える新薬も承認されました。認知症は中年期からの予防で抑えることができます。島野医師に話を聞きました。
高齢化に伴い認知症の高齢者の数は増え続け、団塊世代が75歳以上になる2025年には現在の1.5倍の700万人になり、65歳以上の5人に1人に達する見込みと厚生労働省は発表してあり、もはや誰でもが関わる可能性のある病気と言えます。今年8月に認知症の原因の約60%を占めるアルツハイマー病の新薬「レカネマブ」が厚生労働省に承認されました。脳にたまって神経細胞を破壊する異常たんぱく質を取り除く薬で、軽度認知症の進行抑制に効果が期待できます。しかし、認知症は60代までの予防で回避できることがわかっています。今日はこのことを中心にお話します。
2017年に英国の医学誌「ランセット」とロックフェラ―財団の共同委員会(ランセット委員会)は、認知症の3分の1は予防可能と発表しました。世代別に存在する12の潜在的危険因子の割合を次に挙げます。これらの予防に取り組むことで合計35%の危険因子を防げることになります。このように、60代からの生活の仕方が重要です。高血圧や糖尿病等の生活習慣病を防ぎ、難聴等聴覚障害があれば補聴器などで対応すること、そして家族以外の人とのコミュニケーションを作ることが大切です。薬を服用しても家に閉じこもっていてはいけません。例えば自治体等が主催する教室に参加したり、退職後にシルバー人材センターで仕事をするのもいいかもしれません。独居の場合や、他人とコミュニケーションをとるのが苦手な方は注意が必要です。
頭蓋内に過剰に脳脊髄液(髄液)が貯まり、脳が圧迫されるのが水頭症で、頭蓋内圧が高まるものと、そうでないものがありますが、認知症に関わるのは頭蓋内圧が高まらない正常圧水頭症です。症状は認知機能低下(物忘れ、意欲低下、表情が乏しい等)と歩行障害(小刻み歩行、開脚歩行、すり足歩行、最初の1歩が出ない、うまく止まれない、転倒しやすい等)、尿失禁等です。検査はCTやMRIで脳室拡大を調べ、疑われる場合は腰椎から髄液を少量排出し症状が改善するかを調べます(髄液タップテスト)。改善がみられたら髄液を腰椎から腹腔に排出するシャント術を行います。経路に障害がある場合は脳室から腹腔に排出する方法をとりますが、どちらも皮下に圧可変式バルブを留置し症状に合わせて体外からバルブ圧を調整できます。手術は1週間の入院が必要ですが、術後翌日から歩行できます。最後に、他の疾患と同様に認知症も早期発見が重要です。「あれ?」と思ったら専門医を受診し、しっかり検査することをお勧めします。