
泌尿器科 医長 堤 岳之 医師
前立腺がんは世界で140万人が罹患し、長寿化が進む中、さらに罹患者が増加する可能性のある疾患です。これまで積極的治療を行えなかった高齢者の患者様にも、身体に負担の少ないロボット手術が行われるようになり、今やこれが治療の標準になりつつあります。4月に当院に赴任した堤医師に話を聞きました。
私の専門は前立腺がんで、世界で最も優秀ながんセンターの一つであるニューヨークにあるメモリアルスローン・ケタリングがんセンター、そしてハーバード大学に3年間留学し、一昨年帰国しました。アメリカでは主に前立腺がんの遺伝子治療の研究を行いました。喫煙など何らかの原因で遺伝子が損傷し、その修復過程でがん細胞ができることはすでに判っています。
前立腺癌患者の1~2割に生まれながら遺伝子損傷を修復するある特定の遺伝子に変異があり、その遺伝子の変異部分にアプローチし、がんを治療する遺伝子治療についての研究を行っていました。アメリカではこの遺伝子治療と同じようにロボット手術が盛んに行なわれており、日本でも一般的になりつつあります。
特に前立腺がん治療においては大変有用であり、日本でロボット手術の保険適応が最初に認められたのは前立腺がん治療でした。当院でも2022年からダヴィンチを導入し、ロボット手術を行っています。そのメリットを次に話します。
前立腺がんの治療は前立腺全摘除術、ホルモン治療、放射線治療などがあります。前立腺全摘除手術は尿道を一旦切断して膀胱と縫合するため、合併症として尿路狭窄や排尿障害、尿漏れが起こりやすくなります。その原因の一つとして骨盤内が狭く、従来の腹腔鏡下手術では作業スペースが限られてしまい、尿道周囲や骨盤底の筋肉の温存が難しいことがあげられます。
しかし、ロボット手術では体内に挿入する鉗子の自由度が高く手振れもなく、またカメラも細かい組織まで見えるため、狭いスペースでも非常に繊細な操作が可能です。そのため、周辺組織の損傷や出血が格段に少なくなり、縫合不全も防げるため合併症の発生が大きく軽減します。
また、これまでの前立腺全摘除術は患者様が高齢で術後の生活で自立が難しいと判断された場合は行わないケースがほとんどでしたが、ロボット手術導入によって合併症が軽減されるため、高齢者の患者様にも手術ができるようになりました。
手術時間は約4時間、入院期間は10日前後ですが、手術翌日から歩行できるなど離床も早く、高齢者の患者様でも社会復帰が早くQOL(生活の質)低下が防げます。
私が一番伝えたいことは早期発見が大切だということです。この疾患は全ての癌種の中でも男性で最も多い癌ですが、早期治療なら予後(進行や治療結果、生存確率などの見通し)が非常に良い。
しかし、初期症状が乏しく、知らない間に進行し、排尿困難や頻尿などの症状が出てきた時には、骨や肺に転移していることが多くあります。このため、50歳以上の男性は※PSA検査を受けることを啓発しています。
「前立腺がんの治療をすると尿が漏れる」は昔の話。ぜひ、早期発見、早期治療を受けてください。
※PSA検査とは血中にある前立腺の特異的なたんぱく質であるPSA値を測定する検査。